ミズくまくん

世界に誇る「水の山」プロジェクト ABOUT "MIZUNOYAMA" PROJECT

ミズくまくん

「水の山」コラム

#008 北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会

この山もこの水も地域の宝。自分たちの手で大切に守り、つないでいく

世界に誇る「水の山」プロジェクトがスタートするきっかけとなった、2014年6月、日本で8番目となるユネスコエコパーク「南アルプスユネスコエコパーク」が誕生した。総面積302.474ヘクタール。山梨、長野、静岡の3県10市町村にまたがる、日本最大のエリアを持つユネスコエコパークだ。
これを受けて2015年3月に設立されたのが、北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会である。

甲斐駒ヶ岳

そもそもユネスコエコパークとはなにか?

「“パーク”っていうから場所のことだと誤解されやすいんですけど、実は、ユネスコが認定する、地域の自然と文化を守りながら、地域社会の発展を目指す“取り組み”のことなんですよ」と教えてくれたのは、北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会の古屋賢仁会長。北杜市では、この取り組みを多様な関係者が一丸となって進めていくために、登録直後から、地域の区長会、商工会、観光協会、拠点を置く企業などを通して広く働きかけをした。そうして集まった約70名によって組織されたのが、北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会(以下、連絡会)だ。当時区長会の会長だった古屋さんも、「地域に住んでいる者として、この地域をどのように守り活用していくかということを考え実行することが、少しでも地域振興につながれば」と思い参加したという。

「みんな思いはあっても、そもそも幅が広過ぎて何から始めればいいのかわからなくてね」。手探りのなか、連絡会が最初に取り組んだのは、かつて甲斐駒ヶ岳の五合目に存在した山小屋の周辺に残されたままになっていた瓦礫をまとめ、ヘリコプターで降ろして処分することだった。「ずいぶん前から問題視されていたこともあって始めたんだけど、それはそれは大変なことになっちゃってね。現場に行くのも大変だし、ヘリで1回におろせる量にも限りがあるし…。結局2年かかりましたね」。

古屋さんによれば、これ以上やると土地の形状が変わるくらいの瓦礫があったそうで、「撤去した後をそのままにしておくと、今度はそれが原因で崩落などの危険が出てくるから、斜面を保護しなければならない。でも、それだっていい加減なことはできないからね」。というのも、連絡会の活動によって本来の生態系が乱れるような事態を招いては、本末転倒になってしまうからだ。ユネスコエコパークの理念に則り、あくまでも本来あるべき姿を守るため、連絡会では改めて周辺の自然環境や生息する植物の調査をした上で、この場所に生息する植物の種が風などで他の場所へ舞っていくことの無いよう、種を定着させやすくする機能を持った植栽シートで斜面を保護したという。

こうして、長年の課題をひとつ解決することができたのだが、「だけどね、そんなことはユネスコエコパーク全体から見たら、ほんの小さいことに過ぎないわけで…」。その後も連絡会では、先進事例を視察に行ったり、専門家の話を聞いたりしながら活動の幅を広げてきた。現在は、「環境」「文化・教育」「ブランド・ツーリズム」という3つの部会に分かれて研究と活動を続けている。

北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡協議会会長古屋さん-インタビュー(1)北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会会長古屋様せせらぎ-南アルプスユネスコエコパーク-魅力発信パネル

どんな活動をしているのだろうか?

例えば環境部会では、本来の植生を維持するため、登山者が知らず知らずのうちに外来植物の種子を持ち込まないよう、市内にある3つの登山口に種子落としマットを設置した。登山道の整備にも取り組んでいる。丸太や岩、落葉など、もともとそこにあったものを使って、その場の自然に合った形で登山道を整備するという、北海道の大雪山で実施されている独特の工法を学び、体験して、すでに中山と日向山で始めている。

文化・教育部会では、民話や民謡、踊りといった、地域に伝承する文化を残していくため、地域のお年寄りなどから聞き取りをして記録に残すという活動を続けている。2022年には、地域に暮らす人たちが、ここで暮らすことの意味や価値を考えるきっかけになればと、小冊子「甲斐駒ヶ岳-その魅力に迫るー」を作成して希望者に配布した。

ブランド・ツーリズム部会では、パンフレットや啓発ポスター、PR動画を作成したり、地域のお祭りやHPを活用したりして、広く南アルプスユネスコエコパークに関する情報を発信して認知を促進してきた。新たな観光資源にしようと、環境部会と協力して登山道の整備や防災などに取り組んできた中山についても、散策マップを作成し、その魅力の発信を始めている。

さらに、連絡会として設立当初から大切にしてきた活動に、子ども達への教育がある。
「地域内の小中学校にも理解してもらい、文化・教育部会が中心となって作成した副読本『わたしたちと南アルプスユネスコエコパーク』を授業で活用してもらったり、水生生物の調査を一緒にやったりと、いろいろな面で連携をはかってきました。子ども達に、自分の住む地域のことを知ってもらい、体験してもらうことが、未来につながっていく。すぐには成果が見えなくても、とても大切な取り組みだと思っています」。

古屋さんらの働きかけにより、武川中学校では全校生徒による中山へのハイキングが実施されるようになった。「私も何度か同行したんですが、驚くことに、ほとんどの中学生が初めて山に登ったというんですね。中山の頂上からは、ちょうどよい具合に自分たちの住んでいる地域が見える。すると、それを見ながら『うんといいとこじゃんね』って友達と話していたりするんです。私はね、その景色とか、山登りをしたこととか、学校から見える山々の風景とか…、そういったものが子ども達の心のどこかに刻まれて、ふるさとへの思いへとつながってくれたら嬉しいなぁと思っているんですよ」。

北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡協議会作成-パンフレット北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡協議会作成-授業風景北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡協議会作成-水性調査中山展望台

設立から7年、課題も抱えている。「初期の頃からメンバーの顔触れにほとんど変化がなくて、人数も増えていません。当然高齢化していくので、今後どうやって若い人を巻き込んでいくかということは大きな課題です。また、いろいろな活動もしているけれど、地域に浸透しているという実感が掴めていないのも事実。この辺りでもう一歩進めるにはどうしたらいいかということも、ひとつの課題だと思っています」と古屋さん。今後は、地域の人たちはもちろん他地域の人へも積極的にPRし、仲間を増やし、活動の輪を広げていきたいと熱く語る。

「鳳凰山や甲斐駒ヶ岳は、本来なら地球の奥深くにある花崗岩でできている。なぜ火山でもないのにこんな山ができたのかといえば、フィリピン海プレートによって地中深くから押し上げられてできた山だから。実は今でもその動きはあって、毎年4mmほど甲斐駒ヶ岳は高くなっているんですよ。そういったこともあって、ここは世界的見ても非常に珍しい地域なんです。
この地域に住む私たちは、山々が雲を遮ってくれるおかげで天候に恵まれ、花崗岩が長い年月をかけて磨いてくれるおかげで、素晴らしい水を得ることができている。美味しい水、美味しい米、美味しい野菜…、考えてみれば、日々の暮らしの至るところで、私たちは山々の恩恵を受けているわけです。ともすれば当たり前だと思いがちですが、これは決して当たり前のことではないんです」。

インタビューを終えて、外に出た。冷たく澄んだ空気のなか、雄々しく気高く聳え立つ甲斐駒ヶ岳の姿が見える。「この山を、自然を、しっかりと守り、子ども達へとつなげていかなければいけないですよね」と古屋さん。その言葉はどこまでも力強く、使命感に溢れていて、胸が熱くなった。
北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡協議会会長古屋さん南アルプスユネスコエコパーク看板

北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会では、主旨に賛同し共に活動してくれる仲間を求めています。北杜市以外にお住いの方でも構いません。志ある方がいらしたら、ぜひご連絡ください。

連絡先
北杜市南アルプスユネスコエコパーク地域連絡会 事務局(北杜市 観光課)
TEL:0551-42-1351