世界に誇る「水の山」プロジェクト ABOUT "MIZUNOYAMA" PROJECT
「水の山」コラム
#016 市民×水の山パートナー企業
北杜の名水が育む恵みを巡る、学びと発見の旅。
北杜市民や水に関心のある人々など、より多くの人々に水の山について知ってもらうための、新たな取り組みがスタートした。その第一弾となるのが、「水の山パートナー企業を巡るツアー」。SNSを通して参加者を募り、10月29日に最初のツアーが開催された。
今回巡るのは、明野地区で大規模な施設栽培を行っている「明野九州屋ファーム」と、白州で水を生かしたお菓子作りに取り組む「台ケ原金精軒」だ。
ツアー概要
13:30 北杜市役所発 → 14:00 明野九州屋ファーム着 企業紹介、ハウス内の視察 →15:30 明野九州屋ファーム発 → 近隣の直売所に立ち寄り → 16:20 台ケ原金精軒着 企業紹介、動画視聴、試食 → 17:00 台ヶ原金精軒発 → 17:30 北杜市役所着 解散
午後1時30分に北杜市役所に集合したのは、6名の参加者。ワゴン車に乗り込み、明野地区にある明野九州屋ファームへ向かう。

大規模なハウスの中は、まるで工場!
日本一の日照時間と、奥秩父山塊の良質な水に育まれ、
全国の食卓へと届けられる大玉の赤いトマト。~明野九州屋ファーム
明野九州屋ファームは、東京都八王子市に本拠を置き、北海道から九州まで日本全国に店舗展開している青果専門店「九州屋」の直営農場。日本一の日照時間と、奥秩父山塊から育まれる良質な水により、おいしいトマトが栽培できるとこの地を選び、明野地区の丘陵地帯に広がる約1万坪の広大な敷地に約7,000坪(サッカー場2面分)のハウスを設置して、2014年からトマトの養液土耕栽培を行っている。年間収穫量は、500トン前後。2019年には、JGAP(※)の認証も取得した。
農場内に虫や菌を持ち込まないよう、さまざまな策が施されているハウス。到着した一行も、不織布のつなぎに着替え、エアーシャワーを浴びてから、いざ農場へ。
最初に案内されたのは、今年9月に定植したというブロック。2か月間で2メートルほどに成長している。家庭菜園などでお馴染みのトマトとは異なる様子に、驚きの声が上がる。
「当社では、ダッチライト型丸屋根ハウスを採用し、9メートルごとに4.5メートルの屋根を2つ設けています。これにより、屋根の骨材を小さくして光の入る量を増やし、天窓の数も多くなるので換気効率も高くなるというメリットがあります。また、天井が高く空間が広いので、温度が安定し、夏の栽培も可能です」(明野九州屋ファーム 村澤さん)
「トマトは、上へ上へと伸び、葉が3枚付いたら花が付くという成長をしていきます。私どもではトマトを吊り下げて誘因するハイワイヤー方式で栽培しており、クロマルハナバチをハウス内に放して、受粉作業を手伝ってもらっています。夜の温度が20℃を下回るとよく働いてくれますが、夏の暑い時期にはハチも夏バテを起こして飛んでくれないので、その間は人間の手で受粉作業を行います。」
明野九州屋ファームでは、農場をいくつものブロックに分け定植時期をずらして、1年中良質なトマトを収穫できるようにしているそうで、続いて4月に定植したハウスに案内された。すでに8メートルほどに成長しており、先ほどとは違い、根元に収穫した後の茎がまとめられ、目線の高さでは、赤く色づいたトマトが収穫の時を待っている。
※JGAP(Japan Good Agricultural Practices)とは、農業における食品安全、労働安全、環境保全などの基準を定めた日本独自の認証制度。生産工程の管理を体系的に行い、農作物の安全性と品質を確保するとともに、持続可能な農業経営の実現を目的としている。



農園というより、むしろトマト工場といった光景に、驚いたり、写真を撮ったりする参加者の姿も見られた。誰からともなく質疑応答が始まった。
Q:管理されたハウス栽培でも、病気が発生することはありますか?
A:日ごろから虫や菌を持ち込まないなど、徹底した予防対策をしていますし、病気が出やすい条件も把握しており、温度や湿度を常に管理しています。それでも条件が満たされそうなときには先手を打って農薬を散布するなどの対策を施すこともあります。ただ、それでも病気になる事はあります。そういったときは、とにかく広げないようにする。病気が広がってしまうと、収穫量がガタンと落ち大きな損害につながりますから、早期発見、早期対応を徹底しています。
Q:どんなトマトを作っているんですか?
A:スーパーなどに並ぶサラダ用の大玉トマトが中心で、現在は、カナバロ、タケルという品種を主に栽培しています。以前は桃太郎という品種を栽培していたのですが、温暖化の影響で気温が上がり作り辛くなったので、暑さに強いカナバロに切り替えました。加えて、中玉のフルティカ、ミニトマトのダルタリーも栽培しています。
Q:トマトは年1作だとのことですが、成長段階によって味に違いはありますか?
A:根から吸った溶液が実に行きつくまでに凝縮されるため、成長したトマトの方が味が濃くなる傾向がありますよ。ところで、弊社がメインで栽培しているカナバロは、ヘタが取れやすいという特徴のあるトマトです。以前はヘタが取れているトマトは新鮮じゃないと敬遠されましたが、今はヘタを付けたままにしておくと傷みやすいということが消費者にも知られるようになり、ごみの省力化にもつながるということで、弊社ではヘタを取った状態で出荷しています。イオンなどにも出荷していますので、機会があったら是非見てみてください。



創業123年。
白州の水と地域食材でおいしいお菓子を作り続ける老舗が、
この環境を未来につなげるためにやっていること
続いて向かったのは、白州地区にある台ケ原金精軒。古くは甲州街道の宿場町として栄えた台ケ原で旅籠を営み、鉄道が開通し宿泊客が減少するのを見越して和菓子屋へ転身。以来、123年にわたって白州の水と地域食材を使い、銘菓「信玄餅」をはじめとする、おいしいお菓子を考案し、提供してきた老舗。近年は、白州の水そのものを味わう、クリスタルのような「水信玄餅」がSNSを中心に話題となり、発売日には長蛇の列ができるほどの人気を誇っている。
旧甲州街道の台ケ原宿にある本店を訪ねると、案内されたのは2階に設けられた休憩スペース。お茶と信玄餅をいただきながらしばし寛いだ後、清水さんの事業紹介が始まった。



「当社では、1902(明治35)年に、ここ台ケ原で和菓子作りを始めました。創業からしばらくは、お餅やパンを作ったり、落雁などの干菓子やアイスを作ったりして地域の方々へ提供していたそうです。そんな時代を経て1971年に発売したのが、山梨土産としても知られる「信玄餅」。静岡に丁稚奉公に行ったこの辺りの人間が、安倍川付近で購入した餅をお盆と正月に持ち帰ってきたことが由来とも、武田信玄の非常食とも言われます。
その後、2009年に生信玄餅、2022年には、水信玄餅を発売しました。これは「口の中で水に戻る、ぎりぎりの柔らかさ」をコンセプトに、白州の水を極限まで生かして作ったお菓子。口の中で水に戻るよう、ごくわずかな寒天のみ使用しており、常温に置いておくと次第に水に戻ってしまいます。そのため、賞味時間はわずか30分です。クリスタルのような美しさがSNSで拡散し、大ヒットしました。
実は、開発当初は、水の塊に300円という価格をつけていいものかという葛藤がありましたし、発売後は、こんなにも人が来てくれるのかと驚くと同時に改めて北杜の魅力を痛感しました。
私どもの会社の目標は、「お菓子で人を幸せにする」ですが、この土地に住むものとして、この環境を守り残していく使命もあるのではないかと考えています。そしてそのために、お菓子を通してこの地の価値を伝えようと、日夜努力を続けています。具体的には、地域の文化を掘り起こして磨く活動や、ブドウや桃、米といった特産品を使ったお菓子の開発。ここにしかない商品、ここへ来ないと食べられない商品を開発することで、多くの方にここへ来ていただき、お金を落としていただけたら、持続可能な農業も実現できるのではないかと考えています。また、人が集まる仕組みづくりの一つとして、台ケ原宿市を毎年開催しており、3日間で5万人が集まる大きなイベントになっています。
さらに、100年先に貴重な資源を残すため、森に木を植えて再生したり、名水の価値を伝えて大切な水を守っていくという活動もしています。」


Q:信玄餅が好きなのですが、賞味期限が短いのが気になります。
A:信玄餅には米粉を使っているのですが、お米は劣化が非常に速く、きな粉の風味も日に日に飛んで行ってしまいます。実は、砂糖の配分を増やせばもう少し賞味期限を延ばすことができるのですが、お餅ならではの歯ごたえもなくなるため、私どもとしては今の配分で続けていきたいと考えています。信玄餅の賞味期限は工場出荷から11日です。ご予約いただければ出来立ての商品をご用意できますので、ぜひご連絡ください。」
Q:水信玄餅は、いつ来れば食べられますか?
A:夏限定の商品で、6月~9月の金土日と祝祭日限定で販売しています。お求めいただいた水信玄餅は当店の2階で召し上がっていただけます。
参加者の感想
「こうした機会でもないと見学できないハウスを訪問し、普段聞けない老舗の裏話も伺えて、楽しい一日でした。おいしいトマトも、大好きなお菓子も、北杜の水あればこそと知り、とても勉強になりました。」
「トマトがあんなに大きくなるなんて、知りませんでした。まるで木のようでしたね。ハウス内も、農場というよりもトマトの生産工場といった様相で驚きました。お野菜は、JAや直売所で購入することが多いのですが、トマトを購入するときはヘタにも注目してみたいと思います。」
「修学旅行のような気分で、とても楽しかったです。金精軒さんの和菓子が好きで、以前からよく利用させてもらっていたのですが、水を守り後世につなげる活動をされていると知り、ますます好きになりました。これからも利用したいと思います。」




金精軒
- 住所
- 山梨県北杜市白州町台ヶ原2211
- 電話番号
- 0551-35-2246
- 定休日
- 木曜日
- 営業時間
- 9:00〜18:00