
山梨県北杜市に移住した友人から、久しぶりに連絡が来た。
というのも、彼の暮らす集落で3月に開催されるアウトドアサウナイベントの記録撮影のお誘いだった。
日々のタスクに追われ疲れていた身体が、大自然のおいしい空気を求め、二つ返事で久しぶりの北杜行きが決まった。
友人が暮らすのは、瑞牆・増富エリア。
今回のアウトドアサウナイベントは、瑞牆山の麓にある増富ラジウム温泉峡で行われる。
昨年冬に続く開催となるイベントは、友人を含む地元青年部が主軸となり、増富温泉の「女将の会」協力の元、
このエリアにしかない魅力を多くの人に伝えるために開催しているそうだ。
当日、集合場所である民宿・渓月に向かうと、女将たちが大量のお弁当を仕込んでいた。
近隣の旅館からこの日のために9人の女将がお弁当作りに集まっているそうで、彩りを気にしながら和気藹々とお弁当を詰めている。
「この地域の郷土料理を中心に、身近にある食材を使っているの。地産地消だね。
その時々の旬を使うから、毎度みんなで14種類ほど献立を出し合って決めているかな。」
手作りこんにゃくの唐揚げ、小松菜と岩茸の荏胡麻和え、増富特産の花豆を使ったおこわなど、 ここでしか味わえないおかずがぎっしり詰まったお弁当は圧巻の一言に尽きる。 なにより、女将たちの愛情が丁寧に細部まで込められているのが伝わる。
お弁当作りが終わり、お昼ごはんを楽しみにしながら、サウナサイトがある本谷川渓谷沿いに向かった。

冬の瑞牆・増富エリアは-10℃を超える厳しい寒さで、本場フィンランドを思わせる気温でのアウトドアサウナ入浴が体験できるそうだ。
水風呂のかわりに川に入って、大自然の中で大地に身をゆだねる。
そんな贅沢なひとときを過ごすことができるのも、この地域ならではの魅力。
サウナサイトに到着すると、早速大の字で川に寝転ぶ参加者を発見。
サウナから出てくる人たちはホクホクと全身に湯気をまとっていて、外気浴している様子を見ているだけで言葉にならないほど気持ち良いのが分かる。
その様子に、参加者としてくるべきだったかも…と少し後悔。


サウナの室内を見せてもらうと、薪ストーブの良い香りがした。このイベントでは移動式のフィンランド式サウナが使われ、
薪ストーブにはハウスメーカーから提供されたフィンランド産木材を使用し、まさしく本場フィンランドを彷彿とさせる環境がととのう。
天然ラジウム温泉を使ったセルフロウリュウも完備されており、温泉に入らずともサウナでラジウムの効果を得ることができるという。
確実に、ここでしか味わうことのできない特別な体験だ。


サウナサイトではドリンクの提供も。
友人が焙煎したという挽きたてのコーヒー豆をハンドドリップで入れてもらった。
寒い中で飲む熱々のコーヒーに勝るものはない。
コーヒーを飲んで自然を満喫していたら、あっという間にお昼になった。


サウナを終えた参加者と共に、民宿・溪月へと戻ることに。
川に飛び込んで気持ちよさそうにしていた方に感想を伺うと、
「いやー、語彙消滅ですね。やばかったです。北杜に住んでいるけど、ここでの体験は別格。
サウナも薪を使っていて、水風呂も川だし、外気浴の空気も大自然。来年も絶対来ます!」
と気持ちの良い言葉が返ってきた。
そんな言葉が返ってくるイベントを山奥の集落の人たちで協力して行っているのだと思うと、こんな粋な集落は他にないのではないかと思ってしまう。
待ちに待ったお昼ごはん。
参加者は、女将弁当を持ち帰るか溪月で食べるかを選ぶことができる。
ちなみに溪月で食べる人には女将の自家製味噌で作った味噌汁の振る舞いがあるので、
次回参加する際にはぜひ溪月で食べていくことをおすすめする。
滋味深く、ありがたい、ぬくもりのあるお弁当を心ゆくまで堪能した。


午後の参加者と入れ替えに午前の参加者たちはラジウム温泉へと出発し、撮影は休憩。
みずがき湖を散策したり、少しドライブをしながら夕方の部のテントサイトへ向かった。


夕方の部は、友人が運営しているキャンプ場0site(ゼロサイト)がサウナサイトとなり、アウトドアサウナができるという、
昼間とは少し違った体験を楽しめる。


建物の中に入ると、キッチンからいい匂い。
夕方の部の参加者は、猟師であり料理人でもあるシェフよるジビエピザが振舞われる。
東京・下北沢で修行後、地元である山梨に戻り、狩猟や農業をしながら活動中だそうだ。
今日は猪のサルシッチャと椎茸のピザ、山菜とカラスミのピザ、白インゲン豆のスープが用意され、
参加者1名につきピザが2枚もついてくるという大満足な内容。


夜になると外の気温がグッと下がり、参加者はそれぞれサウナに入りながらピザを食べて暖をとっていた。
時折、ドラム缶の中に貯められたキンキンに冷えた水風呂に入ってととのう様子も。

終始参加者が楽しそうだった今イベントを無事に終え、移住 4 年目となる友人に増富の魅力について伺った。
「たくさんあるが、集落の人たちが移住者である自分の取り組みに賛同して受け入れてくれることが何より嬉しい。
表情豊かな自然と共に暮らせる喜びももちろんだけど、この集落の人々のあたたかさ、心地よさが魅力かな。」
と笑顔で答えてくれた。
家族で山奥の小さな集落への移住は人知れぬ苦労や困難もたくさんあるだろうが、真摯にこの土地の未来を見据えて行動し続けている姿に、
尊敬の念で胸がいっぱいになった。
今日一日を振り返ると、本谷川渓谷の川の水がとても澄んでいて冷たかったこと、森の奥に行くとあまりの静けさに自分の呼吸の音がよく聞こえたこと、
女将たちが真心こめて作ったお弁当のぬくもり、普段暮らしの中で当たり前すぎて忘れているささやかな感動をたくさん感じることができた。
大自然の中でいつもよりゆっくり穏やかに流れる時間が、とても心地よかった。
そんなことを思いながら、来年は参加者としてサウナイベントに参加しよう!と心に誓い、東京への帰路についた。


写真・文 / 表 萌々花